研究

今月の特集

Acoustic impedance microscopy





生命機能科学研究室の研究


2011.June

Acoustic microscopyについて


超音波は、生体や組織にダメージを与えることなく深部の測定ができるため、近年内臓の検査に用いられています。超音波の反射を利用して、生きた組織、細胞の性質を観察するために、音響顕微鏡(超音波顕微鏡)が開発されてきました。

■小脳組織の構造

脳は大変柔らかく、皮質部分は何種類かの細胞による層状の構造が作られています。小脳では、大型の神経細胞のプルキンエ細胞が並ぶ【プルキンエ層】、小型の神経細胞が密集する【顆粒層】、神経繊維と介在神経の分布する【分子層】が見られます。これらの細胞は、機能に応じて細胞の内部状態が異なり、物理的な性質=硬さや弾性に差異があります。

物質は、それぞれ固有の音速と密度を持っています。音響インピーダンス(Z)は音速と密度の積からなり、音が反射する時間と強さから求めることができます。音響顕微鏡は、組織に高周波の超音波を当て、求めた音響インピーダンスによって細胞の内部状態を可視化する技術です。標準的な反射物質として水(音響インピーダンス1.5)やシリコンを用います。

■物理量で見た脳

音響顕微鏡を用いると、アルデヒドによる化学固定や色素染色を施さずに、生きた組織の細胞内分布を見ることができます。特に密度の高い核が密集する顆粒層はインピーダンスが高く、また細胞骨格を多く含む神経繊維層も高いインピーダンスを示します。左図で赤い帯状に見える部位は顆粒層、黄色の帯状に見える部位は分子層です。

ポリスチレン基板を通して超音波を当てるため、組織の発熱はほとんど見られません。解像度は数μmで、プルキンエ細胞の外形を見ることができます。

■産学連携技術

超音波顕微鏡は、大学と、豊橋市の本多電子(株)が協同で開発し市場化しています。より微細な細胞内観察や、病理切片の観察、診断に、全国の病院で稼働しています。(図は本多電子AMS-50SI)

Reference:
In vivo Observation for Biological Tissue by Acoustic Impedance Microscope
Kimura, S. Terauchi Y. Murakami N. Hozumi N. Nagao M. Yoshida S. Kobayashi K. Saijo Y. IEICE Technical Report 2006-01 25-29 (2006)